(20260301記事)
電池を入れても電源が入らなくなったという主訴でした。
結論(故障原因)
確定ではないが、Vssに何らかのノイズが入ってスイッチを接続しても電源GNDに電位が落ちていないため、ICの端子が不定状態になって回路に電源を入れる信号が出なかったものと考えました。
経緯
始めの対応
バッテリをチェック
電圧がかなり下がっており、交換した後に消耗したのかそれとも交換した後に戻したのかはわかりませんが、とりあえず新しい電池を入れてみてもやはり作動せず。
電池ボックスを磨いて再度チャレンジしたらブートしてプロンプトのアンパンマンの声がして、図鑑の読み取りもできるようになりました。この時点でスピーカやLEDには問題ないことがわかりました。
しかしこれで安心して元の状態に組み立てして最終テストをしたらまた作動しません。
喜びも束の間の動作不安定。中途半端で再現性がなく一番嫌なパターンです。この段階でかなり厄介なものを抱えた気持ちになりましたが、時間内に焦ってあれこれやるよりはじっくりと診たほうがよさそうなので、ユーザさんにお理りして入院対応することにしました。
開いた様子
きれいな状態で、汚れや傷はなく、回路に焦げたような痕跡は見られません。回路基板には、「DG058 V1.2 2014.06.30」という文字と、反対側に「2PE1062A」というなにかの番号が入っています。

スライドスイッチ
スイッチはOnとOffの二相がありますが、5つの端子があります。一番外側から1〜5の番号をつけると、On時には1−2−3−5がGNDに導通し4は孤立しています。またOff時には2のみがGNDに導通し、1−3−4−5は導通してもGNDには落ちていません。1と5はスイッチの筐体にそのまま繋がっています。
ここで大事なことは、通常(よくある)おもちゃは、バッテリのプラス側でスイッチを制御しますが、このペンはバッテリのマイナス側にスイッチをつけて電源を制御(ロ−サイドスイッチ)しているという気づきです。ということは基板のGNDつまりVssにはバッテリの負極に対する電圧があるかもしれない。
回路の電圧チェック
テスタを基板上の要所要所に当ててみると、電圧はバッテリ電圧の3Vないしは昇圧後の3.3V近くを示しています。スライドスイッチも電源オン状態でGND(バッテリの負極)に接続、電源オフ状態でGNDから切れ電圧は3Vなのでバッテリと同じで、概ね問題はありません。
点灯の有無で作動がわかりやすいLEDはアノード(+)側がC13と導通、C13の反対側がOn時にGNDに落ちています。
LEDのアノード、カソードの電圧を調べてみたら、スイッチOFF時には3Vと2.6V、ON時には3.3Vを示しています。LEDは電池2個で点灯するので、この電位差ではLEDは点灯しません。しかもON時にカソード側の電位が全く下がっていない点が怪しいです。
基板上にもTP(テストポイント)と書かれたパターンがいくつかあって、スイッチのOn/Offで電圧の違いを見たところ、On時には3.3Vとほぼ0Vを示しており、Off時には3.0V〜2.8Vでした。これでいいのかどうかは正直に言えばわかりませんが、一応切り替わってはいるようです。(後で間違いに気づく)
コンデンサのチェック
5つのコンデンサがあり、これを全部外してテスタで容量を測定してみました。

47uF(16V)が3つと100uF(10V)が2つありますが、容量はほぼ定格を示していて問題はなさそう。但しいわゆるESR(等価直列抵抗)が出ている可能性もあり新しいものを取り付けて様子見。
コンデンサの新規取り付け
コンデンサを全部取り替えました。ここで新たな問題発生。新しいコンデンサは少しサイズが大きいためケースに入れる際に干渉してしまいます。少しずつ斜めにしながらようやく収まるようになりました。

不具合の「安定化」
ここで電源スイッチを入れても相変わらず起動しません。
U1にテスタのマイナスプローブを当てているとたまに起動することがあって、LEDが点灯してプロンプトが出ます。しばらくすると「電池を交換してね〜」というメッセージが出てLEDが点滅し始めます。U1の役割はよくわかりませんがとりあえずハンダを盛ってみました。
しかしスイッチをOnにしても起動しません。とはいっても基板のバッテリの負極からの接点に繋いだ安定化電源のワニ口クリップをテスタの負極プローブで軽く擦ると、なぜかアンパンマンのプロンプトが立ち上がるという現象がほぼ「安定化」しました。再現性があるということは不具合の原因に近づいているということで朗報です。
また、いくつかのテストポイントをチェックしてわかったのは、スイッチを繋いで作動しないときの電圧と、作動しているときの電圧が、まったく異なっているものがあることがわかりました。具体的にはフラッシュメモリとして基板につけてあるWinbond W25Q128BVFIGというICの電圧ですが、不具合時には3.3Vを示していますが作動時には0.4V〜1.5Vを示しているテストポイントが4箇所あります。つまりフラッシュメモリが動作していないためフラッシュメモリの周辺制御系が怪しいと推察しました。
詳細テスト
特定の不具合箇所ばかりを見ていても問題は見つからないので、このあたりからもう少し本腰を入れて回路全体を理解する必要を認識しました。
再度テストポイントを調べる
不具合の出方が安定化してきたので、テストポイントの電圧を3つのフェーズに分けて調べ直しました。
| TP | SW-OFF | SW-On(不作動) | SW-On(作動) | W25Q128BVFIG |
| Y1(*) | 3.0V | 0 | 0 | この端子は水晶発振器が載っている場所ですが、この基板にはXTAL はありません |
| 1 | 3.1 | 3.7 | 3.7 | この3.7vはペン先にある赤外線LEDの駆動電圧のようです |
| 2 | 3.2 | 0 | ||
| 3 | 3.1 | 0.2 | 3.2 | |
| 4 | 3.1 | 0.2 | ||
| 5(*) | 3.1 | 0 | ||
| 6 | 3.1 | 0 | 3.5 | |
| 7 | 3.1 | 0.2 | 3.2 | |
| 8, 9 | NA | |||
| 10 | 2.8 | 3.3 | 0.4 | 7 /CS |
| 11 | 2.8 | 3.3 | 1.5 | 16 CLK |
| 12 | 2.8 | 3.3 | 1.0 | 8 DO |
| 13 | 2.8 | 3.3 | 0.8 | 15 DI |
| 14 | 2.8 | 3.3 | 3.3 | 9/WP |
| 15 | 2.8 | 3.3 | 1/Hold | |
| 16 | 2.9 | 3.3 | 2/Vcc | |
| 17(*) | 3.0 | 0 | 10/GND | |
(*) この3つはお互いに導通しています。
抵抗値を全部調べる
基板に搭載されているチップ抵抗の値をテスタで読み取り、チップ表面のラベルと比較しました。
| R | ラベル | 測定値(Ω 小数点はkΩ) | 備考 |
| 1 | 103 | 9.9 | |
| 2 | 222 | 2.2 | |
| 3 | 225 | 2.2M | |
| 4 | 472 | 4.7 | |
| 5 | 473 | 47.0 | |
| 6 | 473 | 46.9 | |
| 7 | 333 | 29.7 | |
| 8 | 472 | 4.7 | |
| 9 | NA | ||
| 10 | 472 | 4.6 | |
| 11 | 472 | 4.6 | |
| 12 | 103 | 9.8 | |
| 13 | 333 | 29.4 | |
| 14〜16 | NA | ||
| 17 | 8R2 | 9 | |
| 18 | 8R2 | 9 | |
| 19 | 472 | 4.7 | |
| 20 | 511 | 501 | |
| 21 | 46C(=29400) | 29.1, 28.3 | https://akizukidenshi.com/goodsaffix/01-1Cautions_revT01.1.pdf |
| 22 | 102 | 1.0 | |
| 23〜25 | NA | ||
| 26 | 333 | 32.7 | |
| 27 | 100 | 11 | |
| 28 | 333 | 32.2 | |
| 29 | 472 | 4.6 | |
| 30 | 472 | 4.7 | |
| 31 | 0 | 1 | |
| 32 | 473 | 47.3 | |
| 33 | 331 | 330 | |
| 34 | 100 | 10 | |
| 35 | 103 | 9.9 | |
| 36 | 0 | 1 | |
| 37 | コンデンサが干渉して計測不可 | 102 |
抵抗値には問題はなさそうです。
能動部品を調べる
基板にUで示されている3本足のパーツはレギュレータ、QはトランジスタないしFETなどの電圧制御部品のようなので、スイッチのOn/Off(不動・作動)のモードで電圧を調べようとしました。しかし不動時にテスタを当てると突然起動するので不動時の測定はできませんでしたが、これが結果的に大きなヒントになりました。
数字の並びは、部品の端子の位置により、左下、上、右下という並びで書いてあります。
| パーツ | ラベル | Off | On(作動時) | 備考 | |
| U1 | 3.0/3/0/3.0 | 0/3.7/3.3 | |||
| U4 | 3.0/3/0/3.0 | 3.3/3.0/0 | |||
| U8 | 3.0/3.0/0.1 | 0/3.7/3 | |||
| Q1 | 2A | 2.7/2.7/3.0 | 0/3.3/0 | ||
| Q4 | 1AM | 2.8/2.4/3.0 | 0/3.6/0 | ||
| Q5 | 1AM | 2.9/2.8/3.0 | 0/2.9/0 | ||
下線を引いてあるゴシックは、Vssにリンクしている端子電圧です。作動時にはVss=0VなのでOff/Onの切り替えはうまく行っていることがわかります。
再現性からわかること
スイッチをONにしても起動せず、テスタを部品に当てたら突然起動する。しかし不作動時は物理的にはVssと電源GNDが繋がっているにもかかわらず、Vss電圧が切り替わっていない。これが観察された状態です。
追加のテストで、Vssに直接繋がっていることがこれまでの調べでわかっている端子やテストポイントにスイッチをOffからOnに入れてはテスタを当てる実験をしました。U1左、U4右、タクトスイッチS1右、Y、TP17、TP5にテスタを当てると時々作動します。
これはもはや電子回路の理屈の世界ではなく、Vssに何らかのノイズが入って、電源GNDとVssとの間、あるいは3.7Vラインと他のラインとの間に浮遊容量や寄生インダクタンスが発生して不具合が出ていると仮説を立てました。回路には全く入っていない闇の成分ですのでテスタでは測定できません。
また別の原因として物理的なスライドスイッチのオン時に瞬間的にバウンシングが発生してICの動作不良を起こしているかも知れません。
バウンシングについてのわかりやすい記事はこちらです。
そこで、COB周りのコンデンサ(C15とC18)、スイッチの各端子、電源ラインのGNDをそれぞれ再ハンダしてスイッチを入れてみたところ、なんと安定的に作動するようになりました!!!
今後に活かせること
今回は色々な学びがありました。
- ICを使った回路は正極側ではなく負極側を制御することで電源を入れることがある。この場合、スイッチオフの状態でも回路には電源と同じ電圧がかかっている(オフ時はVss-GND間の抵抗は無限大でVssは電源電圧と同じ、オン時は電源GND電位とVssが同じ。)。
- スイッチをオンにするとVssとGNDが接続され、回路のICが作動状態になる。ここで何らかのノイズが入ってVss電位が下がらないと回路が作動しない。
- ICはなるべく型番からデータシートを参照して、Vss、Vdd、Vcc、GNDの電圧チェックとレギュレータやトランジスタとの接続関係を理解する。
- アナログ回路でGNDを把握するのと同様にデジタル回路でもVssを早めにおさえると回路電源の入りかたがわかりやすい。
- 電圧が正常で動く回路であれば不具合は回路のノイズで発生するかもしれない。その時はVssの浮遊容量、寄生インダクタンスの発生を疑い、パスコンやスイッチ、電源ラインのハンダ付けがしっかりできているか確かめよ。
- スイッチはテスタで導通を確かめたとしても、バウンシングまでは測定できない。疑いつつ進めるためにはスイッチを迂回して直接回路を接続するテストが使えるかも(これはしなかった)。
- 回路を理解していく過程で問題が見えてくるのでどのように作動するか関心をもって探求を続けよう。
参考にした記事
これまでに先人たちがいろいろと試されたことが役に立ちました。同じ原因と考えられる事例はありませんでしたが、経験を共有してもらえると原因の仮説立案や絞り込みにとても有用です。
https://toyhospital-nara.sakura.ne.jp/Toy/Semiconductor_Spec/CCD_IC/SN9P701_v1.02.pdf







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